パープルーム大学物語

 

 

『三つの自画像と拡声』

 

 

 

会期:2016年10月4,5,6日

開場時間:4日13時から6日19時

※会期中はノンストップで24時間オープンしています。

 

会場:花粉になった野方の空白

出品者:あま、urauny、梅津庸一

 

アクセス:野方駅より徒歩2分/中野・高円寺より野方駅行きバス、野方駅下車1分

中野区野方5-30-4野方文化マーケット内

 

 

 

 


 

 

「任意の場と時間に配置されたそれをあなたは覚えていますか?」

 

 

 

 

関東地方からは遠く離れた福島県いわき市の平で開催されている『X会とパープルーム』

という展覧会からどうやら野方にも花粉が飛んできたようです。花粉は風に乗ってやって

きますし、遠くに行くほど散り散りになってしまいます。

ですから、まさか東京の野方まで花粉が到達するとは思ってもいませんでした。

しかし、花粉からすれば「いわき」も「野方」も関係ないのかもしれません。

 

『X会とパープルーム』という展覧会は、山形から上京してきた17歳のパープルーム予備

校生の智輝、そして鳥取で主に70年代に『スペース・プラン』という前衛グループで活動

し、その後一筋縄ではいかない複数のコアによって駆動する特殊なフォーマリスム絵画

を展開してきた74歳のフナイタケヒコ等、異なる出自を持つ作家20名ほどが集結した展

覧会です。言わば、絵画に於ける花壇と言えるでしょう。

いわき市に戦前まで存在した学生によるやや活発な美術サークル 『X会』と、相模原市

を拠点に活動する『パープルーム』を同期させるという設定を設けいわき市の平で展覧

会を開く口実としました。

また、元X会の若松光一郎の作品も遺族から借り受け出品されました。60年代の作品で

アンフォルメル風の抽象画です。この時期にだけ描かれた過渡期の作品群と言えます。

しかし純粋な抽象画ではありません。そもそも純粋な抽象画とはなにかという問題もあり

ますが。

同時期に描かれた作品が小名浜の浜辺に打ち捨てられた廃船の朽ちた船体のテクス

チャーやそれに付着したフジツボなどがモチーフになっていることなどからも、抽象的な

絵画空間に実際の風景の断片を見ていた可能性は高いでしょう。若松は洋画黎明期の

美術教育を受け、戦前は池袋モンパルナスに住み、戦後アヴァンギャルドの影響を受け

てきた若松の画業は言わば洋画史の履歴そのものと言えるでしょう。それをわたしたちは

ニコニコ動画を見るように眺めるのです。

 

 

そんな『X会とパープルーム』展でパープルーム予備校生のあま(パープルーム予備校の

場所をグーグルのストリートビューを使って割り出し予備校に入学する。)は『X染色体

モザイクを有するART反復不成功例の検討』という謎の作品にとりかかりますがその構想

をうまくアウトプットできずにいたところuraunyという語弊を恐れずに言えばポスト・インター

ネットの属性を持つ作家が現れあまを手助けしました。

その時のやりとりには興味深いことが起こっていました。うまく言えませんが、つながりと

断絶がそこには同時にありそれが混ざり合いまるで乳化していくようでした。

 

 

 

あまはuraunyのことをこう振り返る

 

「人柄は好きですけど、 作家としてはまだ掴みきれてない感じです。空間演出は、上手い

のかもしれませんけど…。薄い感じがします。 それも全部面白くて好きなんですけど…と

いう感じです。」

 

また、あまにuraunyはあまのことをどう思っていると思うかと尋ねると

 

「共感されたり面白がられたりする部分は0だと思います。 別世界の存在だと感じる時が

よくあります。」

 

とこたえました。


一方、uraunyにあまについて尋ねると


「あまさんが・論理的に芸術を解読しようとする点 ・論理的でありながら詩的に濁す点 ・

作品を完成させない点 

これらは全て自らの自信の無さにあるものだと思っています。

 私はこれらを否定するわけではありませんが、論理的思考では到底たどり着かない場所

に芸術は存在すると思っていますし、自らの言葉になっていない論理そのものを振りかざ

すことに抵抗があるので感性で空間演出していると言っています。 おそらくあまさんに

とってその点が薄いと感じる点なのでしょう。 

女性が好き、と感じた点は私が意図的にネットヒッピーを思わせるフランクな格好をして

いるからかもしれませんね。 あまさんはおそらく承認欲求がとても強く、でもその欲求の

行き場がわからない人なのだと思います。 それゆえの自信の無さなのだと、そしてその

自信の無さを埋めるために論理的思考や詩的な表現で武装しているんだと思います。

(承認欲求というよりかは、何者かになりたいという願望でしょうか。) そういった素直に歪

んでる感じが彼らしくて魅力的な点だと思うし、私自身あまさんが好きです。 ずっと観察

していたい、追っていたいという点では、ニコあまは願ったり叶ったりの表現だと思います。

また、上記の点を踏まえてなのかある種の母性をくすぐるのか、人を動かす力が彼には

あると思います。 羨ましい限りです。 私も彼に動かされた人間の1人でしょう。 彼が1番

花粉的でありパープルーム的なのかもしれませんね。」


とこたえました。




二人が互いにシェアしたもの共有したものはあったのでしょうか?



あま


「初めてパープルーム予備校で会った時から「この人は結構女性(主に抱くこと)が好きな

のでは」という事を考えていました。 僕はほとんどuraunyさんとの共通点はありませんが、

この一点に関しては(未経験ではありますが)シェアできていたと思っていました。 もっとも、

いわきでの連泊でそういった僕の思い込みは綺麗に消えたのですが。」

 

urauny


「ありました。もりたか屋公開初日のオープニングパーティーでベロベロに酔っ払ったあま

さんが 「昔のカオスラウンジに憧れてて、いつか自分もあんなふうになりたいと思ってた」

と、言っていて底にある野心を感じましたし (一緒に語り合いたかったのですが、そのあと

あまさんがダウンしてしまったのでそれ以上は聞けませんでした) あーでも他は 僕がこう

いう作家なのもあり、あまり素性を見せたくない性格なので一方的なシェアのつもりだった

かもしれませんね。 もともと自分の日常など誰も興味無いと思っているので日常について

の会話をしていたとしても僕があまさんに話したことはほとんど無いかもしれないです。」

 

 



『展覧会に寄せられたあまによるビジュアルの解説』


6枚の画像

を順に重ねたデジタル画像。

下層のレイヤーより 


・「黄葉 」kと出会って初めてユリの花を描いた時の季節。ユリを通して見た時のkが何に

も勝る絵画だったと確信した。出会いは5月ですが、確信したのはちょうど今ごろの季節

でした。もっと言えば9月の第三日曜日です。

 ・「チェックのシャツ」 ↑で述べていた時に実際に着ていたシャツ。最近実家からゼリー状

のパープルーム容器(あまのアパートの部屋)に送られてきた。

・「 若松光一郎 Composition 30.8.82」 1983 h194×w390(3点組) 墨、カゼイン、和紙 

個人蔵 

・「川の写真」 kが卒制で描いた風景を実際に見に、8駅先のkの生まれ故郷へ行った時

とった写真。この場所でkは絵を描いた。

 ・「-4°cコーラの自販機」 あまが最も切なさを感じるのは冬。それも(気温が)寒ければ寒

いほどに。-4℃は17歳の時に宿泊研修で行った雪山の気温。自分としては馴染みぶかい

数字がコカコーラの自販機に使われていて、えも言われぬ感情になる。 

・「ひまわり」 夏の象徴。夏が一番kといた時間が長い。(夏期講習)。画塾の周りには沢山

ひまわりが咲いていた。(秋、冬が全体のテーマなので枯れかかったものを貼)自分として

は大切なモチーフである。(また稀に女性のことを「ひまわりの様」と形容することもあり)

2015.11.17参照。またPiet Mondrianがかつて枯れたひまわりを描いた。


 


わたしの場当たり的な質問に答えてくれた二人に感謝します。しかし記述する際、時系列

が若干おかしくなってしまいました。

uraunyが『X会とパープルーム』の会場で天井のレールに引っ掛けた青いクシュっとした布

が巻かれたホースがおそらく本人の前提としていることとは違って、絵画的に、そしてまるで

なにかを花壇全体に散布しているように機能してしまったように。


パープルームの活動拠点は相模原にあるパープルーム予備校ですが、予備校らしく傾向

と対策で未来を引き寄せる事ができるのならば、洋画、生活、インターネットという雑多な項

で連立方程式を立てて解いてみたい人なんているのでしょうか?

『花粉になった野方の花粉』で開催されるこの展覧会は秩序づけられずに、しかし確かに

一瞬は志向された現実的な形の証明になることでしょう。





※『X染色体 モザイクを有するART反復不成功例の検討』


・オーストラリアにオスカー・ココシュカという画家がいました。画家は意中の女性であった

アルマ・マーラーの人形を、凄まじい嫉妬と独占欲により生み出しました。ココシュカによる

アルマ・マーラーの肖像画は竹橋の東京国立近代美術館にコレクションされています。 

 ・若松光一郎という画家は、アルマ・マーラーの夫であり作曲家グスタフ・マーラーによる

「大地の唄」を聴きながら、連作「大地の唄」を製作したと言われています。

1945年 広島市にて終戦を迎える。8月6日、爆心地より5kmで被爆。 

 ・ART (Assisted Reproductive Technology) 人工授精、体外受精の意味を持つ語。



※『パープルーム』


教育機関であり活動拠点です「パープルーム予備校」、ウェブサイト「パープルームHP」、

移動式の画廊「パープルームギャラリー」機関誌の役割を果たす「パープルームペーパー」

他に「パープルームクッキング」、「パープルミーティング」、「ゼリー状のパープルーム容器」

「パープルームプーポンポン」など。パープルームとは様々な水準の活動、事柄をまとめあ

げ、横断する運動体の名称なのです。


 


文責:梅津庸一

 

 

 

 

 


 

 

 

 

『X会とパープルーム』の展示風景