トークイベント
2017年9月16日(土)18:00-20:30
講師:梅津庸一(美術家、パープルーム予備校主宰)
ファシリテーター:矢津吉隆(美術家、kumagusuku 代表)
亀山隆彦(仏教研究者、龍谷大学講師)
会場:KYOTO ART HOSTEL kumagusuku 1F
料金:1,500円(ワンドリンク付き)
ご予約:mail@kumagusuku.info
(メールにお名前、人数、携帯電話番号をご記入ください。)
定員:最大40名
主催:KYOTO ART HOSTEL kumagusuku
【展示情報】
なおトークイベントの開催と合わせまして、会場であるkumagusukuの中庭に
生活と展覧会と学校という場を兼ねるパープルーム予備校を思わせるようなディスプレイが展開されます。
展示期間:2017年9月16日-24日
【イベント内容】
“クマグスクの森にパープルームがやってくる。”
このたび、KYOTO ART HOSTEL kumagusuku(クマグスク)の中庭をお借りして、
トークイベント「パープルームの林間学校」を開催いたします。
本トークイベントでは、美術家で「パープルーム予備校」主宰の梅津庸一氏を講師にお招きし、
関西にいてはなかなか知ることの出来ないパープルーム予備校の実態、および、その活動の意義や戦略について
詳しくお話いただきます。
パープルームないしパープルーム予備校とは、美術家、梅津庸一氏が神奈川県相模原市に開設した絵画の私塾で、
同時に、2010年以降、日本の現代美術界で大きな注目を集めるオルタナティブ・アーティスト・グループの一つでもあります。
彼らの直近の活動を紹介しておきますと、2017年6月にワタリウム美術館(東京渋谷区)で、
2015年以降の一連の活動を総括する大規模な「恋せよ乙女!パープルーム大学と梅津庸一の構想画」展を開催し、
同じく7~8月にはNADiff a/p/a/r/t(恵比寿)で、同予備校にも深い縁のある「ドローイング的な性質」を強く持つ
作家を取り上げた「パープルームの夏休み」展を開催しています。
これまで関東(および中部)地方を中心に、精力的に活動を展開してきた梅津氏とパープルーム予備校ですが、
本イベント「パープルームの林間学校」は、第一に同校の、関西における「校外学習」と位置付けられます。
さらに、開催地が緑深い京都のkumagusukuであることから、「林間学校」と命名いたしました。
ここで、kumagusuku(クマグスク)の名前の由来についても簡単に説明しておきますと、
「クマグス」と「グスク」の二語の合成で、前者は言わずもがな、明治期を代表する粘菌学者で民俗学者でもある南方熊楠より、
後者は「城」ないし「建築物」を意味する沖縄の方言からとられました。
「パープルームの林間学校」は、前後編の二部構成です。
前編では、講師である梅津庸一氏に、パープルーム予備校の活動の詳細とその意義、
さらに、ご自身の絵画論に関して存分に語っていただく予定です。
続く後編では、同じく美術家でkumagusuku 代表の矢津吉隆氏にも登壇いただき、
主に日本の美術をめぐる梅津氏の歴史観と言語観、それらとパープルーム予備校の理念・戦略の関係性について、
もう少し広い視野から議論できればと考えています。
いささか唐突ですが、「常におしりが濡れたまま過ごす林間学校」(『ラムからマトン』2015年)の記憶は意外に強固で、
皆さまにとっても容易には忘れがたいものではないでしょうか?
出来ることなら「パープルームの林間学校」も、そのような機会に、
ご参加いただいた皆様の記憶に長く残るイベントになることを強く願ってやみません。
(亀山隆彦)
【プロフィール】
梅津庸一
1982年山形県生まれ。
美術家、パープルーム予備校主宰。
東京造形大学絵画科卒業後、ラファエル・コランの代表作《フロレアル》を下敷きとする《フロレアル(わたし)》(2004-2007)
でデビュー。 2014年には、黒田清輝《智・感・情》をアップデートした《智・感・情・A》を発表するなど、
一貫して日本近代美術の展開と、その末尾に位置する自身の関係性に関して探求を続けている。
また2013年には、美術共同体「パープルーム」を結成し、画塾から現代の美術予備校、
さらに芸・美術大学にいたる美術、教育、共同体の在り方について、実践を通じて批評考察を試みている。
近年の主な展覧会として、愛知県美術館個展企画ARCHでの「未遂の花粉」(2017年)など。
梅津個人としてだけでなく、パープルームとしても日本各地で展覧会を企画している。
矢津吉隆
1980 年大阪府生まれ。
美術家、kumagusuku 代表
京都市立芸術大学美術科彫刻専攻卒業後、2006 年まで、アーティストグループ “Antenna” で活動。
その後独立し、京都を拠点に活動する。立体を中心に、様々な素材を用いてインスタレーション作品を制作。
主な展覧会として、「青森EARTH2016 根と路」青森県立美術館、「第13回岡本太郎現代芸術賞展」川崎市岡本太郎美術館、
「PASSAGE」Takuro Someya Contemporary Art(個展)等がある。
また、2013年に瀬戸内国際芸術祭 醤の郷+坂手港プロジェクトに参加し、
宿泊型のアートスペース「kumagusuku」を3ヶ月限定で開業。
その後、2015年 、京都市に KYOTO ART HOSTEL kumagusuku を正式オープン。
亀山隆彦
1979年奈良県生まれ。
仏教研究者、龍谷大学非常勤講師
不参加型ワークショップとしての「パープルームの林間学校」
パープルームとは、 2013 年に誕生した絵画に特化した美術の共同体である。神奈川県相模原市にあ
る私塾「パープルーム予備校」をその活動拠点とし、学校と生活の場と発表の場を兼ねている。そこ
には多くの入塾希望者、作家や批評家、研究者などが訪れる。ウェブサイト「パープルーム HP」、
移動式の 画廊「パープルームギャラリー」、機関誌の役割を果たす「パープルームペーパー」、関連
施設の「ゼリー状のパープルーム容器」、「パープルームプーポンポン」 他に「パープルームクッキ
ング」、「パープルミーティング」など「パープルーム」という語が付く名称がたくさん存在する。パ
ープルームとは様々な水準の活動、事柄をまとめあげ横断する運動体の総称である。パープルームと
いう語の由来は諸説あり外光派(紫派) の部屋、バーチャルな馬、地球物理学のスーパープルームな
ど未だに謎に包まれている。
さて、この空間に広がるのはいわゆる伝統的な絵画や彫刻のような作品ではない。見立てとしては
「温室」、「集会場」、「サナトリウム」、「仮設の」、「リユース」、「自己啓発セミナー」、「花粉と密室」
などのワードが下敷きにある舞台の書き割りのような空間と言える。これまでの活動の記録や関連資料を
プリントしたものが貼られていたり、角材を組んで仮設の温室のように設えたり、所謂インスタレー
ションと呼ばれる空間自体が作品という形式に依拠している。椅子の配置などは美的な判断で決めら
れたのではなくイベントでお客さんが使った状態のままになっている。つまりこの展覧会は台風の前
夜にこの温室の中で行われたパープルームの林間学校の授業のために作られた場とその残留物が展
覧会であり作品なのである。会場に貼られた記録写真を見ていくと過去の展覧会のインスタレーショ
ン風景やパープルームの日常の様子が多く目につく。しかしその内容は雑多でいろいろな出自のもの
が混ざり合っているのでなかなか判別が難しい。由来が不明の記録物たちは複雑な模様の柄としてそ
こにありそれはパープルームの神秘性を担保したりチープなユースカルチャーに見せたりする。いず
れこの展覧会の記録物も何かに流用されることだろう。
しかし、それはあくまでも形式上のことに過ぎない。ここで行われたイベントの内容の出来不出来や
美的判断に基づかないインスタレーションの文法に価値があるのではない。教育やイベントは鑑賞す
るものではないし、特に目新しい表現様式でもないからだ。ここでは価値自体が不在であるにも関わ
らずそれなりに展覧会らしく、作品らしく見えてしまうということが問題になっているのである。作
品の制作や展覧会を組織することとそれを記録し記述することは必ずしも自明のことではない。
パープルームは日本の近代を掘り起こしたり、既存の美術教育に異議を唱え状況を少しでも改善する
ことを目的にしているわけではない。それはあくまでも価値判断をするための基準となる目盛りであ
り初期設定である。個や集団が美術、アートという制度と同期しデバイスとなった時に何が起こるの
か、実質的にどこに価値が発生するのか、またしないのかを見定める試みなのである。相互に影響を
受け合うのだとしても絵画作品はあくまでも個がそれぞれに生み出すものであるが、パープルームが
取り組むのは所謂作品についてではない。有形無形の物語や出来事の記録、記憶を計上し秩序立てて
思考し組み立てては分解する営み。パープルームとは「実験場」である。有限の美術という空間のな
かでどんな化合物を燃焼させればカロリーが発生するのかを日々試している。それは有用なものを生
み出さなくてもかまわない。
梅津庸一/パープルーム